20代の憂鬱〜ハタチ②〜
ハタチの頃付き合ってた1回り以上年上の彼との出会いは、19の冬、いわゆるナンパだった。
学校帰り、駅前の美容院に向かって歩いてると車から声をかけられた。
ねー、どこ行くの?
無視。
ねーねー。
無視。
どこ行くの?送って行くよ!
無視。
ねーってば!オレ、1回通り過ぎて急いで戻ってきたんだってば!!
無視。
ねー、名前は??オレ、ケンジ!!
初めて顔を見た。
名前が元カレと一緒だった。
名前だけじゃなく、血液型もタバコの銘柄も一緒だった。興味を持つには十分だった。
父親を養いながら2人で暮らしていたケンジは、夜上がりでモデル経験もあったこともあり、スタイルも顔も悪くなかった。
色んな意味でオトナだった彼に教えられたことはたくさんある。
よく怒られた。
褒められたことは…あまり記憶にない。笑
ミヤが白って言うなら世界中がみんな黒って言ってもオレだけはずっと白だって言ってやる。クサいセリフだけど、この人はホントにそういう人だった。
言葉ではなく、行動で全てを表す人だった。
もし、世界中が敵に回っても、彼は味方でいてくれる。素直にそう思える人だったし、実際そうだった。
有言実行。自分にも他人にも厳しい人だった。
それがとっても深い愛情だと理解することは、当時子どもだった私には少し難しかったけれど、どれほど有り難いことか今ならわかる。
それなりに上手くやっていけてたのに、あの日から少しずつ変わっていった。
あの日、あの場所に行かなかったのに、私のココロはもうケンジにはなかった。
ケンジとの付き合いがもうすぐ1年になろうとする頃、私は元カレに会いに行ってしまった。
久しぶりでキンチョーの中玄関を開け、目に入ったのは女物のヒール。
あぁ、そーだよね。
何もなかったようにドアを閉め、回れ右。
自分のバカさ加減に嫌気がさす。
怒り、イラ立ちと、ケンジへの申し訳なさ、自己嫌悪。頭がクラクラする。
その時、上から声が降ってきた。
『ミヤ、待って!今行くから!!』
初めて。
初めて追いかけてくれた。
涙が溢れた。